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10Kは1.0MPaじゃない?若手設計者のための「圧力・温度レーティング」失敗しない選定ガイド

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「今回のラインは300℃だから、10Kのバルブを選んでおけば大丈夫だろう」

もしあなたが今、そんな風に考えて設計図を引いているなら、少しだけ手を止めてください。

プラント設計の世界において、「呼び圧力(10KやClass 150)」という名前をそのまま「耐えられる圧力」だと信じ込むことは、重大な設計ミス、最悪の場合は爆発や漏洩事故に直結する非常に危険な行為です。

結論からお伝えします。バルブやフランジが耐えられる圧力は、温度が上がるほど坂道を転げ落ちるように低下します。この現象を「ディレーティング(圧力値の減少)」と呼びます。

この記事では、かつて私も陥った「10Kの罠」を解き明かし、JISやASMEといった規格表を正しく読み解いて、自信を持って安全なバルブを選定するための実務手順を徹底解説します。

この記事を読み終える頃には、あなたは「なんとなく」の選定を卒業し、確固たる根拠を持って設計に臨めるようになっているはずです。

「10Kだから大丈夫」の落とし穴。なぜ温度で圧力が変わるのか?

「KAIJI君、この350℃のラインに10Kのバルブを選んだ根拠は何だ?」

20年前、上司にそう問われた私は、自信満々に答えました。「10Kは1.0MPaまで耐えられる規格ですから、今回の常用圧力0.8MPaなら十分余裕があります」。

その瞬間、上司の顔色が変わりました。「バカ野郎! 金属は熱を持てば飴のように柔らかくなるんだ。350℃の炭素鋼が、常温と同じ力で圧力を支えられるわけがないだろう!」

これが、私が「圧力・温度レーティング(P-Tレーティング)」の重要性を骨身に刻んだ瞬間でした。

流体温度と材料強度の関係は、明確な反比例の関係にあります。

金属材料は温度が上昇すると、原子間の結合が弱まり、永久変形が始まる「降伏点」が著しく低下します。

さらに高温域では、一定の荷重をかけ続けると時間とともに変形が進む「クリープ現象」も無視できなくなります。

つまり、「呼び圧力(10KやClass 150)」とは、あくまで「特定の基準温度(通常は38℃以下)」における耐圧性能を示す「名前」に過ぎないのです。

温度が上がれば、そのバルブが耐えられる「最高許容圧力」は、名前の数値よりもずっと低いところまで減少します。

カタログを読み解く3つの鍵:材質・規格・ディレーティング

バルブの選定ミスを防ぐためには、カタログの表紙にある「10K」という文字ではなく、カタログ巻末の技術資料にある「圧力・温度レーティング表」を読み解く必要があります。

ここで重要になるのが、「材質」「規格」「ディレーティング」の3つの要素の関係性です。

まず、材質によって圧力の低下率は全く異なります。

例えば、炭素鋼(WCBなど)とステンレス鋼(CF8Mなど)を比較すると、ステンレス鋼は常温での耐圧こそ炭素鋼に譲るものの、高温域での強度低下は比較的緩やかという特性があります。

次に、参照する規格(JIS B 2220やASME B16.34)によって、基準となる数値が異なる点に注意が必要です。

日本国内で一般的なJIS規格と、海外案件で必須となるASME規格では、安全率の考え方や基準温度が異なります。

JIS B 2220 と ASME B16.34 の主要な違い

比較項目JIS B 2220 (鋼製管フランジ)ASME B16.34 (Valves)
呼び圧力の表記10K, 20K, 30K などClass 150, 300, 600 など
基準温度120℃以下(一部材料を除く)38℃以下 (100°F)
材料分類材料グループごとに細分化Material Group (1.1, 2.2等) で定義
主な適用範囲日本国内の汎用プラント・設備石油・ガス・電力等の国際規格案件

最高許容圧力と流体温度の関係を定義したものが「P-Tレーティング」です。

設計者は、自分が選ぼうとしているバルブの「材質」が、どの「規格」の、どの「材料グループ」に属しているかを確認し、その温度における「最高許容圧力」を特定しなければなりません。

 実務で迷わない!「絶対に失敗しないバルブ選定」5ステップ

若手エンジニアが実務でミスなくバルブを選定するための、標準的なワークフローを整理しました。この5ステップを順に踏むことで、根拠のある選定が可能になります。

step
1
設計条件(温度・圧力)の確定

単に「常用圧力」だけでなく、異常時に想定される「最高使用温度」と「最高使用圧力」をセットで把握してください。

step
2
流体に適した材質の選定

流体の腐食性や温度範囲から、ボデー材質(炭素鋼、ステンレス鋼、合金鋼など)を決定します。

step
3
該当する規格レーティング表の参照

メーカーの技術資料から、ステップ2で選んだ材質のP-Tレーティング表を開きます。

JIS品ならJIS B 2220、ASME品ならASME B16.34に基づいた表を探してください。

step
4
比例補間による許容圧力の算出

規格表には50℃刻みなどで数値が記載されています。

例えば、設計温度が325℃の場合、300℃と350℃の数値から「比例補間(線形補間)」を用いて、その温度での正確な最高許容圧力を算出します。

[計算例:比例補間]
300℃での許容圧力が2.8MPa、350℃での許容圧力が2.6MPaの場合、325℃での許容圧力は:

 

step
5
シートレーティングの最終確認

これが最も重要な落とし穴です。バルブ全体の耐圧性能は、「ボデー(本体)」と「シート(弁座)」のレーティングのうち、低い方の値に制限されます。

 現場の疑問:ソフトシートの限界と「呼び圧力」の罠

現場の若手からよく受ける質問に、「ボデーが20Kなら、どんな温度でも20Kの性能を発揮できるんですよね?」というものがあります。

答えは「ノー」です。

特に注意が必要なのが、ボール弁などに使われる「ソフトシート(テフロン/PTFEなど)」です。

ボデー(金属)が300℃まで耐えられる設計であっても、ソフトシートは200℃付近で急激に強度が低下し、シール性を失います。

この場合、バルブの最高許容圧力はボデーの数値ではなく、シートの限界温度によって厳しく制限されます。これを「シートレーティング」と呼びます。

ポイント

高温ラインでボール弁やバタフライ弁を選ぶ際は、必ず「ボデーレーティング図」と「シートレーティング図」の両方を重ね合わせて確認してください。

なぜなら、この点は多くの若手設計者が見落としがちで、ボデーの耐圧だけを見て選定した結果、試運転時にシートが熱変形して漏洩が発生するトラブルが後を絶たないからです。

特にPTFE(テフロン)シートは、150℃を超えると耐圧性能が極端に落ちることを肝に銘じておきましょう。

まとめ

「圧力・温度レーティング」の本質を理解することは、プラントエンジニアとしての第一歩です。

  1. 呼び圧力(10K等)は常温の基準であり、高温では耐圧が下がる(ディレーティング)。
  2. 材質と規格(JIS/ASME)によって、低下の度合いは異なる。
  3. バルブの限界は、ボデーとシートの「低い方」で決まる。

次にバルブを選ぶときは、カタログの表紙を閉じて、巻末のレーティング表を開いてみてください。

そこで導き出した数値こそが、あなたの設計を守る「根拠」になります。

もし判断に迷ったら、メーカーの技術窓口に「この温度・圧力条件でのシートレーティングを教えてください」と問い合わせてみましょう。

その一言が、大きな事故を防ぐはずです。

[参考文献リスト]

  • この記事を書いた人

KAIJI

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