配管

配管伸縮継手の使い分け決定版|単式・複式・ベローズの選定フロー図解

※当サイトはプロモーションが含まれています。

カタログを開くと、ベローズ、スリーブ、ジンバル…と似たような名前が並んでいてめまいがしますよね。

私も新人の頃、先輩に「ここはジンバルだ」と言われても、なぜ単式じゃダメなのか全く理解できませんでした。

「もし選定を間違えて、配管が破損したらどうしよう」そんな不安を抱えるあなたに、プラント配管設計経験者としてアドバイスします。

実は、伸縮継手の選定ルールはシンプルです。

「変位の種類」「伸縮量」「アンカー強度」。

この3つの分岐を見極めるだけで、選ぶべき継手は自動的に決まってくるのです。

この記事では、カタログスペックの羅列ではなく、私が実務で叩き込まれた「失敗しない選定ロジック」を、熱伸縮計算から内圧推力の処理まで含めて図解します。

読み終える頃には、手元の図面を見て「ここは複式」「あそこはヒンジ」と、自信を持って選定できるようになっているはずです。

なぜ「使い分け」を間違えると危険なのか?(熱応力の破壊力)

まず、なぜ私たちがこれほどまでに伸縮継手の選定に神経を使う必要があるのか、その物理的な理由をお話しします。

それは、配管に発生する「熱応力」が、想像を絶する破壊力を持っているからです。

例えば、一般的な炭素鋼鋼管は、温度が100℃上昇すると1mあたり約1.2mm伸びます。

「たった1.2mmか」と思われるかもしれません。

しかし、プラント配管ではどうでしょうか。直管長が100mあれば、伸びは120mmにも達します。

もし、この120mmの伸びを逃がす場所がなかったらどうなるか。

配管は行き場を失い、数トンから数十トンもの巨大な力が、接続されている機器ノズルやフランジにかかります。

その結果、サポートがへし折れるか、配管自体が座屈して、フランジから高温の蒸気や危険な薬液が噴出することになります。

経験からの一言アドバイス

【結論】: 「たかが継手」と甘く見ず、必ず熱伸び量を計算し、それを吸収できるだけの能力を持った継手を選定してください。

なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、私も若い頃、試運転初日に蒸気配管のフランジから激しい漏れを起こし、肝を冷やした経験があるからです。

配管は生き物のように動きます。その動きを適切にコントロールすることこそが、設計者の最大の使命なのです。

【図解】失敗しない伸縮継手の選定フローチャート

では、具体的にどのように種類を選べばよいのでしょうか。

ここからは、私が実務で行っている選定プロセスを解説します。

複雑に見える伸縮継手の種類も、以下の3つのステップで絞り込んでいけば、論理的に最適解にたどり着けます。

 

Step 1: 何を吸収したいか?(目的の明確化)

最初の分岐点は、その継手を設置する「目的」です。

熱伸縮(軸方向の変位)を吸収することが主目的である「伸縮管継手」に対し、「フレキシブルチューブ」は主にポンプの振動や配管の芯ズレ(軸直角変位)を吸収することを目的としています。

  • 熱による伸び縮みを吸収したい: → 次のStep 2へ(伸縮管継手を選定)
  • 振動を縁切りしたい / 多少の芯ズレを吸収したい: → フレキシブルチューブまたは防振継手を選定

Step 2: 伸縮量はいくつか?(量の計算)

次に、対象となる配管区間の熱伸縮量を計算します。

計算した伸縮量が、継手1個で吸収できる範囲内(一般的に単式ベローズなら20〜30mm程度)であれば、最も安価でコンパクトな「単式ベローズ」で決まりです。

しかし、伸縮量がそれ以上に大きい場合は、構造的に吸収量を2倍以上に増やした「複式ベローズ」、あるいはストロークを長く取れる「スリーブ形」を検討する必要があります。

単式ベローズと複式ベローズは、吸収できる「量」によって使い分ける関係にあります。

Step 3: アンカーは打てるか?(最重要の分岐点)

ここが最も重要で、かつ初心者が最も悩みやすいポイントです。

選定しようとしている継手の両端にある配管固定点(アンカー)は、十分に強固でしょうか?

  • 強固なアンカーが打てる:「自由形(単式・複式)」を選定。
  • アンカーが打てない(建物強度が低い / 高所配管 / 複雑なルート):「ヒンジ形」「ジンバル形」などのバランス形を選定。

この「アンカーが打てるか否か」が、自由形を使うか、特殊な形式を使うかの決定的な分かれ道となります。

「内圧推力」の罠|自由形とバランス形・ヒンジ形の決定的な違い

Step 3で登場した「アンカー」がなぜ重要なのか。

ここで、配管設計における最大の落とし穴である「内圧推力(プレッシャースラスト)」について解説します。

自由形ベローズと内圧推力の関係

私たちが普段よく目にする「自由形ベローズ」は、内部に圧力がかかると、蛇腹(ベローズ)が伸びて真っ直ぐになろうとする力が発生します。

これを内圧推力と呼びます。

この力は非常に強力で、例えば口径100A、圧力1MPaの場合、約1トンもの力で配管を両側に押し広げようとします。

内圧推力が発生する自由形ベローズを使用する場合、この巨大な推力を受け止めるために、配管の両端には強固なアンカー(固定点)が必須となります。

これが「作用・反作用」の関係です。

もしアンカーが不十分だと、配管全体が動いてしまい、継手が伸びきって破損したり、配管が座屈したりする大事故につながります。

アンカーが打てない場合の救世主:ヒンジ・ジンバル

しかし、現場には「建物の梁が弱くてアンカーが打てない」「高所の配管で固定できない」というケースが多々あります。

そのような「アンカーが打てない場所」での代替手段として存在するのが、ヒンジ形やジンバル形です。

これらの形式は、継手自体にタイロッドや金具がついており、内圧推力を継手自身が拘束する構造になっています。

そのため、配管側のアンカーには推力がかかりません。

つまり、自由形ベローズとヒンジ/ジンバル形は、アンカー強度が確保できるかどうかによって使い分ける代替関係にあるのです。

主要形式の徹底比較(ベローズ vs スリーブ vs フレキ)

ここまでで選定のロジックは理解できたと思います。

最後に、主要な形式ごとの特徴を比較表で整理します。

それぞれのメリット・デメリットを把握し、現場の状況に合わせて最適な製品を選んでください。

特に、スリーブ形とベローズ形はメンテナンス性においてトレードオフの関係にあります。

スリーブ形は構造上パッキンを使用するため定期的な交換が必要ですが、ベローズ形はメンテナンスフリー(ただし寿命が来たら全交換)です。

伸縮継手・フレキシブルチューブの形式別比較

形式主な用途・特徴メリットデメリットメンテナンス性
単式ベローズ[熱伸縮] 少量の軸方向変位安価、コンパクト、構造が単純吸収量が小さい、内圧推力の処理が必要フリー (交換まで不要)
複式ベローズ[熱伸縮] 多量の軸方向変位大きな伸縮量を吸収可能単式より高価、全長が長くなるフリー (交換まで不要)
スリーブ形[熱伸縮] 非常に大きな軸方向変位ベローズよりさらに大きな伸縮に対応、堅牢パッキンの定期交換が必須、摺動抵抗が大きい要メンテ (パッキン交換)
ヒンジ / ジンバル[熱伸縮] 角度変位 (L字/Z字配管)内圧推力が発生しない、アンカー負荷が小さい構造が複雑で高価、軸方向の伸縮は吸収できないフリー (交換まで不要)
フレキシブルチューブ[振動・芯ズレ] ポンプ廻り等振動吸収に優れる、配管誤差を吸収しやすい大きな熱伸縮の吸収には不向き、ねじれに弱いフリー (交換まで不要)

よくある質問 (FAQ)

最後に、私が現場で若手エンジニアからよく受ける質問に回答します。

Q: 伸縮量が足りないので、単式ベローズを2個直列に繋いで使ってもいいですか?

A: 原則としてNGです。

単式ベローズを単に2個並べても、均等に縮むとは限りません。

片方だけに負荷が集中して早期破損したり、接続部で配管が「くの字」に曲がる座屈現象(コラムバックリング)が起きやすくなります。

伸縮量が足りない場合は、素直に複式ベローズを選定するか、2つのベローズの間に強固な中間アンカーを設置して、それぞれの挙動を独立させる必要があります。

Q: 材質はSUS304とSUS316L、どう使い分ければいいですか?

A: 流体の腐食性と設置環境で判断します。

一般的な水や蒸気であればSUS304で十分なケースが多いですが、海水や塩素イオンを含む流体、あるいは腐食性ガスが漂う環境では、耐食性に優れたSUS316Lを選定するのが無難です。

ただし、コストが変わってくるため、仕様書で指定された流体条件と、メーカーの耐食表を照らし合わせて決定してください。

まとめ:自信を持って図面に「答え」を書き込もう

伸縮継手の選定は、決して難しいパズルではありません。

  1. 目的は何か?(熱伸縮か、振動か)
  2. 量はどれくらいか?(単式で足りるか、複式が必要か)
  3. アンカーは打てるか?(自由形か、ヒンジ/ジンバルか)

この3つの問いに順番に答えていけば、あなたの目の前にある配管ルートに最適な継手は、必然的に一つに絞られます。

特に「内圧推力」と「アンカー」の関係さえ理解していれば、重大なトラブルは確実に防げます。

まずは、担当している配管ルートの図面を広げ、どこに固定点(アンカー)が打てるかを確認することから始めてみてください。

その固定点が、安全な配管設計の出発点になります。

このロジックを武器に、自信を持って設計を進めてください。

あなたの引く図面が、安全なプラントを支える礎になることを応援しています。


参考文献

  • この記事を書いた人

KAIJI

【エンジニアの知恵袋】は、これからはじめてプラント設計に従事する初心者や、もっと知識を深めたい中堅者向けに有益な情報を発信する専門サイトです。

あなたにおすすめ記事

-配管