「20mある高温配管は、運転時に何mm伸びるのか?」
「ΔL=αLΔTという式は知っているけれど、αやLには何を入れればいい?」
配管設計を始めた頃、このような疑問を持つ人は少なくありません。
配管の自由な熱膨張量は、基本式 ΔL=αLΔTを使えば概算できます。
例えば、配管長20m、据付温度20℃、運転温度200℃の条件では、日本製鉄が参考値として示している線膨張係数を使うと、炭素鋼配管は約41.8mm、ステンレス配管は約59.0mm伸びる計算になります。
しかし、プラント配管の熱膨張設計は「59mm伸びる」と分かったところで終わりではありません。
配管が自由に伸びれば変位として現れますが、AnchorやGuideなどで熱変位を拘束すれば、配管やサポート、接続機器にForceやMomentが発生します。
つまり配管熱膨張を理解するには、
熱伸びを計算する
↓
熱伸びをどこへ逃がすか設計する
↓
配管系全体の応力・反力を確認する
という順番で考えることが重要です。
この記事では、ΔL=αLΔTの意味から具体的な計算例、炭素鋼とステンレスの違い、Rest・Guide・Line Stop・Anchorによる拘束、さらにASME B31.3のFlexibility Analysisまで、配管熱膨張の考え方を順番に解説します。
この記事で分かること
ΔL=αLΔTの意味と使い方- 炭素鋼・ステンレス配管の熱膨張量
- 10m・20m・50m・100m配管の実例計算
- 線膨張係数αが資料によって違う理由
- 「熱膨張」と「熱応力」の違い
- Rest・Guide・Line Stop・Anchorと熱膨張の関係
- 配管自身のFlexibilityで熱変位を吸収する考え方
- 手計算からASME B31.3の配管応力解析へ進む流れ
本記事の位置づけ
本記事の手計算は、配管熱膨張を理解するための概算・一次検討を目的としています。
実際のプラント配管の設計では、適用規格、材料、温度範囲、配管レイアウト、支持条件、接続機器などを考慮した個別評価が必要です。
配管の熱膨張とは?まず「何mm伸びるか」を理解しよう
結論からいうと、金属製の配管は温度が上昇すると長くなり、温度が低下すると短くなります。
この長さの変化が「熱膨張・熱収縮」です。
配管は温度が上がると長くなる
例えば、常温20℃で施工した直管を考えてみましょう。
運転開始によって配管金属温度が200℃まで上昇すると、配管は長手方向へ伸びようとします。
配管の片側を固定し、反対側を自由にしている場合を単純化すると、
20℃の配管
┃────────────→
↓
200℃の配管
┃────────────────→
というように、自由端側が移動します。
この温度変化によって増えた長さが熱膨張量ΔLです。
熱膨張量は「ΔL=αLΔT」で概算できる
直管の自由熱膨張量は、一般に次の式で概算できます。
ΔL=αLΔT
それぞれの記号は次の意味です。
| 記号 | 意味 | 使用する単位の例 |
|---|---|---|
ΔL |
熱膨張量・熱伸縮量 | mm |
α |
線膨張係数 | 1/℃ |
L |
温度変化前の配管長 | mm |
ΔT |
温度差 | ℃ |
日本製鉄の技術資料でも、鋼管の熱膨張量について同じ関係式が示されています。
また参考値として、SGP・炭素鋼の線膨張係数を11.6×10⁻⁶、ステンレスを16.4×10⁻⁶としています。
ΔTは「運転温度」ではなく温度差
熱膨張計算で特に間違えやすいのがΔTです。
例えば、
- 据付時の配管温度:
20℃ - 運転時の配管金属温度:
200℃
なら、
Δ T=200-20
なので、
Δ T=180℃
です。
ΔT=200℃ではありません。
熱膨張量は「何℃になったか」だけでなく、基準状態から何℃変化したかで決まります。
配管が長いほど、温度差が大きいほど熱膨張量も増える

式 ΔL=αL ΔT を見ると、熱膨張量ΔLは配管長Lに比例します。
同じ材質・同じ温度差なら、
- 10mより20m
- 20mより50m
- 50mより100m
の配管の方が大きく伸びます。
同様に配管長と材質が同じなら、ΔT=50℃よりΔT=200℃の方が熱膨張量は大きくなります。
つまり熱膨張量を決める主要な3要素は、
①材質 α
②配管長 L
③温度差 ΔT
です。
ΔL=αLΔTを使って配管の熱膨張を実際に計算
ΔL=αLΔTは難しい式ではありません。
大切なのは、α・L・ΔTの意味と単位を理解したうえで、実際の配管条件を代入することです。
ここからは具体的な数字で計算してみます。
実例① 炭素鋼配管20m・20℃→200℃の場合
条件を次のように仮定します。
- 材質:炭素鋼
- 配管長:
20m - 据付時温度:
20℃ - 運転時温度:
200℃ - 線膨張係数:
11.6×10⁻⁶/℃
配管長をmmにすると、L=20,000mm です。
温度差は、Δ T=200-20=180℃ です。
日本製鉄が参考値として掲載している炭素鋼の線膨張係数11.6×10⁻⁶を使うと、次のようになります。
Δ L=11.6×10⁻⁶×20,000×180
Δ L=41.76mm
したがって、自由に伸びられる状態なら、20mの炭素鋼配管は約41.8mm伸びる という概算になります。
実例② ステンレス配管20m・20℃→200℃の場合
同じ条件で材質だけをステンレスに変えてみます。
日本製鉄が参考値として示すステンレスの線膨張係数16.4×10⁻⁶を使います。
Δ L = 16.4×10⁻⁶×20,000×180
Δ L=59.04mm
つまり、20mのステンレス配管で約59mm です。
20m程度の配管でも、据付温度と運転温度の差が180℃あれば約6cm動こうとする計算になります。
ここまで熱変位が大きくなると、サポートや機器接続部を無視して「少しくらい伸びても大丈夫だろう」と考えることはできません。
炭素鋼とステンレスではどれくらい違う?
同じ条件を並べると違いが分かりやすくなります。
比較表
20m・温度差180℃における炭素鋼とステンレスの熱膨張量
| 項目 | 炭素鋼 | ステンレス |
|---|---|---|
| 配管長 | 20m | 20m |
| 据付温度 | 20℃ | 20℃ |
| 運転温度 | 200℃ | 200℃ |
| ΔT | 180℃ | 180℃ |
| 代表α | 11.6×10⁻⁶/℃ | 16.4×10⁻⁶/℃ |
| 概算熱膨張量 | 約41.8mm | 約59.0mm |
日本製鉄が掲載している代表値で比較すると、同じ長さ・同じ温度差でもステンレスの方が大きく伸びます。
ベンカンもステンレス鋼鋼管の線膨張係数を17.3×10⁻⁶/℃、炭素鋼鋼管を11.6×10⁻⁶/℃として、ステンレス鋼鋼管の方が大きく伸びることへの注意を示しています。
10m・20m・50m・100mでは何mm伸びる?
炭素鋼・ΔT=180℃・α=11.6×10⁻⁶/℃として、配管長だけを変えて計算すると次のようになります。
| 配管長 | 概算熱膨張量 |
|---|---|
| 10m | 約20.9mm |
| 20m | 約41.8mm |
| 50m | 約104.4mm |
| 100m | 約208.8mm |
100mの炭素鋼配管では、単純計算上約209mmです。
20cm以上動こうとするため、長距離の高温配管では熱膨張を配管レイアウトに組み込んで考える必要性が直感的に分かります。
南国フレキ工業も、鋼管や18-8系ステンレス鋼などについて、温度ごとの1m当たりの熱膨張量を一覧化しています。
温度と材質によって単位長さ当たりの熱伸びが異なることが確認できます。
線膨張係数αの値がサイトによって違うのはなぜ?
配管熱膨張を調べると、「ステンレスは16.4×10⁻⁶」という資料もあれば、「17.3×10⁻⁶」という資料もあります。
どちらか一方が単純に間違っているとは限りません。
線膨張係数を見るときは、
- 材料の種類
- ステンレスの鋼種
- 温度範囲
- 平均線膨張係数かどうか
- 参照している規格やデータ
を確認する必要があります。
例えば日本製鉄はステンレスの参考値として16.4×10⁻⁶を掲載しています。
一方、ベンカンは0~100℃の範囲でステンレス鋼鋼管の熱膨張係数を17.3×10⁻⁶/℃としており、20,000mm・温度差50℃なら17.3mm伸びる計算例を掲載しています。
さらに、NASAが公開しているSS304の材料物性資料では、Mean Coefficient of Thermal Expansion(平均熱膨張係数)が温度によって変化することがグラフで示されています。
したがって、
ΔL=αLΔTで一定のαを使う計算は、熱伸びを直感的・概算的に把握するには非常に便利です。ただし、高温配管の正式な設計では、適用規格で使用する温度範囲の熱膨張データを確認することが重要です。
専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 線膨張係数をGoogle検索で1つ見つけたら、その数字だけをすぐ計算書へ入れず、材質・温度範囲・出典までセットで確認してください。
線膨張係数は一見すると単純な材料定数に見えるため、最初は「SUSならこの数字」と固定して考えがちです。
しかし、高温域まで扱う配管では温度依存性を無視できない場合があります。
概算と正式設計でデータの扱いを分ける習慣をつけると、計算の信頼性が大きく上がります。
「何mm伸びるか」だけでは配管設計が終わらない理由

配管の熱膨張量を求めたら、次に考えるべきことは、
「その配管が本当に自由に伸びられるのか?」です。
ここからが配管熱膨張設計の重要な部分です。
自由に伸びられる配管では熱膨張は「変位」になる
片側を固定し、反対側を完全に自由とした単純な直管なら、温度上昇による熱膨張は主として配管端部の変位として現れます。
例えば、Δ L=59mm なら、単純化すれば自由端が約59mm動くイメージです。
配管が自由に移動できれば、「伸びたい」という熱変位を配管自身の移動によって逃がせます。
熱膨張を拘束するとForce・Moment・熱応力が発生する
ところが、実際の配管は自由空間に浮いているわけではありません。
- Anchor
- Guide
- Rest
- Line Stop
- 機器ノズル
- 構造物
- 他の配管
などと関係しています。
例えば直管の両端を強固に固定すると、配管は温度上昇によって伸びようとしても自由に伸びられません。
考え方としては、
温度上昇
↓
本来はΔLだけ伸びたい
↓
Anchor等が移動を拘束
↓
Force・Momentが発生
↓
配管・Support・Equipment NozzleにReaction
↓
Thermal Stress
となります。
つまり、
熱膨張量ΔLと熱応力は同じものではありません。
熱膨張量は温度変化によって生じようとする変位であり、その熱変位を拘束することによってForce・Momentや応力が発生します。
ASME B31.3はProcess Pipingについて材料、設計、製作、検査、試験などを扱う規格であり、2024年版でもFlexibility and Stress Intensification Factorsが主要項目として扱われています。
ΔL=αLΔTとσ=EαΔTは何が違う?
熱膨張を学ぶと、σ = E α Δ T という式を見ることがあります。
日本製鉄の技術資料でも、熱膨張量の式とは別に、熱応力の基本関係として、
σ = α ( t2 - t1) E を掲載しています。
この2つは目的が違います。
自由に伸びる場合
Δ L = α L Δ T
→ どれだけ伸びるか
完全拘束を概念的に考える場合
σ=EαΔT
→ 伸びを完全に止めたらどれだけ大きな応力が生じ得るか
ただし、実際の配管系は単純な完全拘束直棒ではありません。
実配管には、
- エルボ
- ティー
- オフセット
- Support
- 摩擦
- ノズル
- 配管自身の曲げ変形
- Support変位
などがあります。
したがって、実配管の熱応力をσ=EαΔTだけで評価して設計完了とすることは適切ではありません。
実際の配管では、配管系全体のFlexibilityを考える必要があります。
Rest・Guide・Line Stop・Anchorは熱膨張をどうコントロールする?
配管サポートは、単に**「配管が落ちないように支える金物」**ではありません。
熱膨張を考える配管では、
どの方向へ動かし、どの方向を止めるか
を決める役割があります。
配管軸方向をX、横方向をY、鉛直方向をZとして整理すると、Rest・Guide・Line Stop・Anchorの違いが理解しやすくなります。
Rest|配管重量を支える

Restは、基本的に配管の重量を支持するサポートです。
特に重要なのは鉛直方向です。
配管を下から受けることで重量を支持しますが、水平方向については構造・摩擦条件によって滑ることができます。
つまりRestは、重量を支えながら、熱膨張による水平移動を完全には止めないという考え方で使われるケースがあります。
ただし、実際には配管とSupport間の摩擦によって水平Reactionが発生します。
Guide|熱膨張する方向へ配管を誘導する

Guideは名称どおり、配管の移動方向を案内するサポートです。
例えばX方向へ伸ばしたい直管なら、
- X方向(配管軸方向):移動を許容
- Y方向(配管軸直角方向):横ずれを制限
という拘束を設定します。
Guideを適切に設けることで、熱膨張する配管が横方向へ大きく蛇行したり、想定外方向へ移動したりすることを抑えながら、設計した方向へ熱変位を誘導できます。
Line Stop|配管軸方向の移動を止める

Line Stopは配管軸方向の移動を拘束します。
例えば配管軸がX方向なら、Line Stopは主としてX方向の移動を止めます。
Line Stopを設ける位置によって、配管をどちら側へ熱膨張させるかをコントロールできます。
そのため、Line Stopは単なる固定部品ではなく、配管熱変位の流れを設計するうえで重要です。
Anchor|配管の基準点として拘束する

Anchorは配管系の基準となる拘束点です。
単純化すると、
- X方向
- Y方向
- Z方向
- 回転方向
を強く拘束する役割を持ちます。
Anchorを配置すると、
Anchorを基準として、配管の熱膨張をどちらへ逃がすのか
という設計意図が生まれます。
Anchor位置を決めずにGuideだけを考えても、熱変位の方向は整理できません。
Anchor・Guide・Line Stopは互いに独立した部品として覚えるより、「熱膨張の方向を設計するための拘束条件」として考えると理解しやすくなります。
比較表
Rest・Guide・Line Stop・Anchorの基本的な役割
| サポート | 配管軸方向X | 横方向Y | 鉛直方向Z | 主な役割 |
|---|---|---|---|---|
| Rest | 移動可※ | 移動可※ | 支持 | 配管重量を支える |
| Guide | 基本的に移動可 | 制限 | 支持条件による | 配管を軸方向へ誘導 |
| Line Stop | 制限 | 条件による | 条件による | 軸方向移動を止める |
| Anchor | 制限 | 制限 | 制限 | 配管の基準点を作る |
※Rest上の水平移動には摩擦が作用します。また、実際の拘束自由度はSupport形状、Gap、摩擦係数、施工条件、設計仕様によって異なります。表は基本概念を理解するための簡略化です。
専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 配管サポートを考えるときは、サポート名称だけでなく、X・Y・Zのどの自由度を拘束しているかをイメージしてください。
「Guideだからこう動く」と名称だけで判断すると、実際のSupport構造やGapを見落としやすくなります。
配管応力解析でも重要なのは名称より拘束条件です。
配管サポート図を読むときにXYZ方向の自由度へ置き換える習慣をつけると、熱膨張の流れが格段に見えやすくなります。
配管の熱伸びは「配管自身のしなり」で吸収する

配管の熱膨張対策は、すべてを止めることではありません。
むしろ高温配管では、配管自身を適切に変形させて熱変位を吸収するという考え方が重要です。
この配管の変形しやすさを理解するキーワードが**Flexibility(可とう性)**です。
真っすぐな直管を強く拘束すると熱変位を逃がしにくい
長い直管を両端で強く拘束すると、軸方向に発生しようとする自由熱伸びを逃がしにくくなります。
一方、途中にエルボやオフセットがあれば、配管の曲げ変形を利用して熱変位を吸収できる場合があります。
つまり、熱膨張設計では、
配管を動かさない設計
ではなく、
安全な方向へ適切に動かす設計
という発想が重要です。
L字配管は曲げ変形を利用できる
例えばL字形の配管なら、直管部の熱膨張によってエルボ以降の脚部が曲げ変形します。
直管一本だけを見れば、「50mm伸びる」という軸方向の変位ですが、L字配管全体では配管自身が曲がることで変位を吸収します。
このように、配管形状そのものがFlexibilityを作ります。
Z字配管やOffsetでも熱変位を吸収できる
Z形のOffsetを設けると複数の脚部が変形できるため、直線配管より熱膨張を吸収しやすくなります。
ただし、
- Offset長さ
- 管径
- 肉厚
- 材質
- 温度
- Anchor位置
によって応力は変わります。
「エルボを1個入れれば大丈夫」という単純なものではありません。
Expansion Loopは配管経路を利用してFlexibilityを増やす
長い直線配管では、U字形などのExpansion Loopを設ける方法があります。
Expansion Loopは直線方向の熱変位を、Loop部分の曲げ変形によって吸収します。
配管が長くなれば自由熱伸びも増えるため、長距離配管では意図的にFlexibilityを持つレイアウトが重要になります。
ベンカンも、熱伸縮処理としてベローズ形伸縮継手を使用する方法だけでなく、配管の可とう性を利用して伸縮を吸収する方法を紹介しています。
Expansion Jointは便利だが「入れれば解決」ではない
配管自身のFlexibilityだけでは難しい場合、BellowsなどのExpansion Jointを利用する方法もあります。
しかし、熱膨張量が大きい=Expansion Jointを入れればよいとは限りません。
Expansion Jointを使う場合でも、
- Anchor
- Guide
- 変位方向
- 許容変位
- 圧力による推力
- メーカーが定める設置条件
などを考える必要があります。
Expansion Jointは熱変位を吸収する有力な手段ですが、配管系全体の拘束設計とセットで考える機器です。
ΔL=αLΔTからASME B31.3の配管応力解析へ進む流れ

ここまで理解できれば、ΔL=αLΔTと配管応力解析の関係が見えてきます。
重要なのは、手計算と配管応力解析を対立させないことです。
手計算には手計算の役割があり、解析には解析の役割があります。
私は配管熱設計を、次の3段階で考えると理解しやすいと考えています。
LEVEL1|熱伸びを計算する
最初に、Δ L=α L Δ Tで自由熱伸びを概算します。
LEVEL1で知りたいのは、
この配管は温度変化によって、どの程度動こうとするのか?
です。
例えば、
- 5mm
- 20mm
- 60mm
- 200mm
では設計者が持つべき感覚が変わります。
この段階では細かな応力値より、まず熱変位のオーダーを把握します。
LEVEL2|熱伸びを設計する
次に考えるのは、
その熱変位をどこへ逃がすのか?
です。
LEVEL2では、
- Anchor
- Guide
- Line Stop
- Rest
- Elbow
- Offset
- Expansion Loop
- Equipment Nozzle
などを組み合わせます。
つまりLEVEL2は、変位方向と拘束条件を決めるレイアウト・Support設計です。
例えば60mm伸びる配管について、「60mm伸びる」だけではなく、「Anchor Aから右方向へ40mm、左方向へ20mm程度動かす設計なのか」といった熱変位の行き先を考えます。
LEVEL3|配管系全体として成立するか解析する
最後に、
- Displacement
- Stress Range
- Support Reaction (支持反力)
- Anchor Load
- Equipment Nozzle Load
などを確認します。
ここでASME B31.3などの適用規格に基づくFlexibility Analysisへ進みます。
ASMEはB31.3 Process Pipingの公式ページで、2024年版の主要変更項目の一つとして**Flexibility and Stress Intensification Factors(paras. 319 & 320)**を挙げています。
ASMEが提供するB31.3 Process Piping Designコースでも、
- Providing Adequate Piping Flexibility(適切な配管の柔軟性の確保)
- Stress Range(応力範囲)
- Stress Intensification Factor(応力集中係数)
- Cold Spring(コールドスプリング)
- Simplified Piping Analysis and Layout(簡易配管解析およびレイアウト)
- Pipe Support Design(配管サポート設計)
などが主要テーマとして扱われています。
したがって、熱膨張 → Flexibility → Stress Range → Support / Reactionという流れは、配管設計における重要な体系です。
高温域では「αを1つ固定する」だけでなく温度依存性を確認する
初心者が熱膨張を理解するとき、Δ L=α L Δ Tは非常に便利です。
一方、温度範囲が広い配管では、線膨張係数をすべての温度に対して一定と考えるより、使用する規格・材料データに基づいて温度依存の熱膨張を確認することが重要です。
NASAのSS304データでも、平均熱膨張係数が温度に対して変化しています。
したがって概念的には、
初期検討
Δ L= α L Δ T
↓
詳細設計
適用規格のTemperature-dependent Expansion Dataを用いて評価
という段階を踏むと理解しやすくなります。
手計算は配管応力解析ソフトを使っても重要
CAESAR IIなどの配管応力解析ソフトを使用する場合でも、ΔL=αLΔTによる手計算は役に立ちます。
例えば、「20mのステンレス配管なら概算60mm程度伸びるはず」と理解していれば、解析ソフトの結果が、
- 6mm
- 60mm
- 600mm
のどれになっているかを見た瞬間に、モデル条件や単位設定を疑う判断材料になります。
解析ソフトは入力条件に基づいて計算します。
したがって、手計算は解析の代用品というより、解析結果の妥当性を確認するための基礎感覚として非常に重要です。
配管熱膨張の計算でよくある5つの失敗
配管熱膨張の基本式は単純ですが、実務ではいくつかの典型的な間違いがあります。
失敗1|ΔTに運転温度をそのまま入れる
据付温度20℃、運転温度200℃なら、
誤り→Δ T=200℃ではなく、
正しい考え方→Δ T=200−20=180℃です。
ΔTは温度そのものではなく温度差です。
失敗2|mとmmを混ぜる
L=20mをそのまま式に入れながら、最終結果をmmとして扱うと単位を間違えます。
αを1/℃、Lをmmとして使うなら、20m=20,000mmへ変換します。
式に数字を入れる前に、「最終的にΔLを何の単位で出したいのか」を決めてください。
失敗3|αをすべての温度で同じ値として扱う
代表値を使う概算ではα一定で問題ありません。
しかし、高温域や広い温度範囲を扱う正式な配管設計では、温度による材料物性の変化を確認する必要があります。
SUS304についてもNASAの材料データでは平均熱膨張係数の温度依存性が示されています。
失敗4|「60mm伸びるから60mmの隙間を取ればOK」と考える
熱膨張量は配管設計の入口です。
実際には、
- 配管がどちらへ動くか
- Anchorはどこか
- Guideはどこか
- Elbowはどう変形するか
- Support摩擦はどう作用するか
- Equipment Nozzleにどの程度のReactionが入るか
を考える必要があります。
自由熱伸び量と実配管の各点の変位は必ずしも同じではありません。
失敗5|直管一本だけを見て配管系全体を見ない
例えばポンプに接続する配管の場合、「直管Aが30mm伸びる」という情報だけでは十分ではありません。
エルボ、分岐、Support、機器ノズルなどを含め、AnchorからAnchorまでの配管系全体として熱変位を考える必要があります。
配管応力解析の目的は、単一の直管の伸びを計算することではなく、配管系全体の変形・応力・Reactionを確認することです。
専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 熱膨張計算の答えが出たら、計算書を閉じる前に必ず**「このΔLはどこへ行くのか?」**と自分に問いかけてください。
配管熱膨張の初学者は、計算結果の数字が出ると仕事が終わった感覚になりやすいものです。
しかし、設計で重要なのはΔLそのものより、ΔLをどの配管形状で吸収し、どのSupportで誘導し、どの機器へReactionを伝えないようにするかです。
「何mm?」の次に「どこへ?」を考えるだけで、配管を見る視点が大きく変わります。
配管熱膨張の計算・設計でよくある質問
炭素鋼の線膨張係数はいくつですか?
日本製鉄の技術資料では、SGP・炭素鋼の参考値として**11.6×10⁻⁶**が示されています。
ただし、正式な設計では使用材料と温度範囲に適したデータを確認してください。
SUS304の線膨張係数はいくつですか?
ステンレス配管の概算では16~17×10⁻⁶/℃程度の代表値を目にすることが多く、日本製鉄はステンレスの参考値として16.4×10⁻⁶、ベンカンは0~100℃で17.3×10⁻⁶/℃を使用しています。
SUS304の熱膨張係数には温度依存性があるため、使用する温度範囲とデータ出典の確認が重要です。
配管10mなら何mm伸びますか?
配管長だけでは決まりません。最低でも、
- 材質
- 配管長
- 温度差
が必要です。
例えば炭素鋼、L=10m、ΔT=180℃、α=11.6×10⁻⁶/℃なら、
Δ L = 11.6×10⁻⁶×10,000×180なので、Δ L ≒ 20.9mmです。
蒸気配管はどのくらい伸びますか?
「蒸気配管だから○mm」と一律には決まりません。
熱膨張量を求めるには、
- 配管材質
- 配管長
- 据付時の配管温度
- 運転時の配管金属温度
などが必要です。
例えば同じ蒸気温度でも、10mと100mでは熱伸び量が大きく異なります。
何mm以上伸びたらExpansion Jointが必要ですか?
「○mm以上なら必ずExpansion Joint」という一律の基準では判断できません。
Expansion Jointが必要かどうかは、
- 配管長
- 配管径・肉厚
- 材質
- Layout
- Anchor位置
- ElbowやOffsetのFlexibility
- Support
- 機器許容荷重
- 適用規格
などを考えて判断します。配管自身のFlexibilityで吸収できる場合もあります。
アドバイス
Anchorを増やせば熱膨張に対して安全になりますか?
必ずしもそうではありません。
Anchorを追加すると配管の移動を制限できますが、同時に自由熱膨張を拘束するため、Anchor Reaction(固定点の反力)や配管応力が増える場合があります。
「動くから固定する」という発想だけでAnchorを増やすのではなく、どこへ熱変位を逃がしたいのかを先に考えることが重要です。
配管応力解析はいつ必要ですか?
一律に「○℃以上」「○m以上」と断定することはできません。判断には、
- 適用規格
- 設計温度
- 配管径
- 材料
- Layout
- 支持条件
- 機器接続
- Fluid Service
- プロジェクト仕様
などが関係します。
ASME B31.3を適用するProcess Pipingでは、規格要求とプロジェクト設計基準に基づいてFlexibility評価の必要性を判断します。
ASME B31.3はProcess Pipingの設計・材料・製作・検査・試験などを幅広く対象としています。
CAESAR IIなどを使えばΔLの手計算は不要ですか?
配管応力解析ソフトを使う場合でも、手計算による概算は役立ちます。
ΔL=αLΔTで自由熱伸びを把握しておけば、解析結果の変位が常識的なオーダーかどうかを確認できます。
配管応力解析ソフトは非常に強力ですが、解析モデルの入力条件が間違っていれば結果も間違います。
手計算による工学的な感覚を持つことは、解析ソフトを正しく使ううえでも重要です。
まとめ|熱伸びを「計算する」から「設計する」へ
配管の熱膨張量を求める基本式は、Δ L= α L Δ Tです。
まず押さえておきたいポイントを整理します。
- 配管の自由熱膨張量は
ΔL=αLΔTで概算できる αは線膨張係数、Lは配管長、ΔTは温度差- 炭素鋼とステンレスでは線膨張係数が異なる
- ステンレスは炭素鋼より熱膨張量が大きくなりやすい
- 線膨張係数αは温度範囲によって変化するため、正式設計では出典・適用温度を確認する
- 自由に伸びる配管では熱膨張は主に変位として現れる
- AnchorやRestraintで熱変位を拘束するとForce・Moment・Thermal Stressにつながる
- Rest・Guide・Line Stop・Anchorは配管の自由度と熱膨張方向を設計する重要な要素
- Elbow・Offset・Expansion Loopなど、配管自身のFlexibilityを利用して熱変位を吸収できる
- 最終的には配管系全体についてStress RangeやReactionなどを評価する
配管熱膨張で最も大切なのは、
「何mm伸びるのか」を求めることだけではありません。
本当に重要なのは、
「発生した熱伸びを、どこへ、どのように逃がすのか」
を設計することです。
そのため、配管熱膨張を検討するときは、
LEVEL1|熱伸びを計算する
Δ L= α L Δ T
↓
LEVEL2|熱伸びを設計する
Anchor・Guide・Line Stop・Rest・Layout
↓
LEVEL3|安全性を評価する
Flexibility・Stress・Reaction・Equipment Nozzle Load
という順番で考えてみてください。
「熱膨張=難しい熱応力解析」という印象があっても、最初の入口は非常にシンプルです。
まずΔL=αLΔTで配管がどれだけ伸びるのかを把握し、次にどの方向へ動かすのかを考える。
この順番が理解できると、配管サポートや配管応力解析が一つの流れとして見えてきます。
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配管の熱膨張方向を設計するには、Rest・Guide・Line Stop・Anchorが「どの方向を拘束するのか」を理解することが重要です。
参考資料・規格
本記事では、主に以下の一次資料・メーカー技術資料を参考にしています。
- ASME B31.3-2024 Process Piping|ASME
Process Pipingの材料、設計、製作、検査、試験等を扱う規格。2024年版ではFlexibility and Stress Intensification Factorsも主要項目として示されています。 - ASME B31.3 Process Piping Design|ASME
ASME公式教育プログラム。Adequate Piping Flexibility、Stress Range、Stress Intensification Factors、Pipe Support Designなどが主要テーマとして扱われています。 - 「4.熱による鋼管の膨張と荷重」|日本製鉄株式会社
ΔL=α(t2-t1)Lの計算式、炭素鋼・ステンレスの線膨張係数参考値、熱応力の基本関係を掲載しています。 - Space Nuclear Propulsion Material Property Handbook|NASA
SS304について平均熱膨張係数と温度の関係を掲載しており、熱膨張特性の温度依存性を確認できます。 - 「配管の熱膨張と熱伸縮処理」|株式会社ベンカン
ステンレス配管についてΔL=αLΔtの具体的な計算例と、配管の可とう性を利用した熱伸縮処理を掲載しています。 - 「各種金属パイプ1m当たりの熱膨張量の表」|南国フレキ工業株式会社
鋼管・18-8系ステンレス鋼・銅・アルミニウムの温度別熱膨張量を比較できます。